航空や船舶においては無線以外に地上側と連絡する手段が無いため、無線は安全な運行を維持するのに絶対に必要です。これに対し鉄道は地上でも特にレールの上という極めて限られた場所しか走らないうえ、安全な運行の管理には主にATSやATCなどといった信号保安装置が使われるため、無線による音声通話などは基本的に常用はされません。しかしながら、主に非常時への迅速な対応の必要性などから、列車無線はほぼ全ての路線で設置されていると言えます。
列車無線を導入する契機となったのは1962年5月3日に常磐線三河島駅で発生し犠牲者160名を出した多重衝突事故であるとされています。
また、司令室と列車の間で通信を行う列車無線のほか、保線や入換などの連絡用にも無線が用いられています。
現在の鉄道においては旅客サービスの一環として無線が用いられる事が多いように思われます。例えば、ホームで案内放送を行う駅員が持っているマイクは大半がワイヤレス、つまり無線のマイクです。また、優等列車の車内にはカード専用公衆電話が設置されていたりもしますよね。
本文ではこれら鉄道の中で使われている無線に関しお話したいと思います。
名称 | 周波数帯 | 主な用途 |
---|---|---|
VLF(超長波) | 3kHz~30kHz | 対潜水艦通信 |
LF(長波) | 30kHz~300kHz | 誘導無線(IR), 電波航法, 標準電波 |
MF(中波) | 300kHz~3MHz | AMラジオ放送, 船舶・航空通信 |
HF(短波) | 3MHz~30MHz | 短波放送, 船舶・航空通信 |
VHF(超短波) | 30MHz~300MHz | 列車無線(主に私鉄), 保守無線,FMラジオ放送, テレビ放送(VHF帯), 航空無線, 各種業務無線 |
UHF(極超短波) | 300MHz~3GHz | 列車無線(JR, 新幹線, テレビ放送(UHF帯), 携帯電話・PHS, 無線LAN |
SHF(極極超短波) | 3GHz~30GHz | 衛星通信, 衛星放送, レーダ |
鉄道における無線の使われ方に関して述べる前に、もっと幅広く、無線通信一般に関して簡単に説明します。何事も基礎は大事ですよね。
無線で使われる媒体は電波です。他に家庭の電子機器のリモコンのような光による無線通信というのも存在はしますが、光の性質上使途が極めて限られていますのでここでは述べません。
電波というのはその名の通り波です。海の波は水が動く事によって発生しますが、 電波は電界と磁界が振動する事によって発生します。電界や磁界が何物かという事は面倒なので説明しませんが、電界や磁界は見たり聞いたり触ったりする事が出来ないので、 電波は人間には感じられないのですね2。
電波の電界と磁界が1秒間あたりに振動する回数を周波数(しゅうはすう)と言います。この周波数という言葉は電波に限らず、音波や電気信号などでも使われます。周波数の単位はHz(ヘルツ)です。例えば1Hzというのは一秒間に1回振動するという事になります。随分ゆっくりですね。また、コンセントの交流は東日本地域では50Hz、西日本地域では60Hzです。
周波数においては1000Hzの事を1kHz(キロヘルツ)と呼びます。kというのはkmやkgなどと同じで1000倍という意味です。そしてこの1kHzの1000倍、つまり100万HzをMHzメガヘルツと呼びます。kHzはAMラジオ放送の、MHzはFMラジオ放送や携帯電話などの周波数の単位として聞いた事があるのではないでしょうか。
そして1MHzのこのまた更に1000倍、10億HzをGHz(ギガヘルツ)と呼びます。MHzやGHzはパソコンのクロック周波数としても用いられますね。これはべつにパソコンの内部に電波が飛び交っているという訳ではなく、パソコンの内部で一秒間に数億回デジタル素子が動作しているという意味です3。
単位の話はこのくらいにしまして、電波を扱う場合、この周波数というのは最も重要なものです。電波を用いて無線通信を行う場合、周波数が一致しないと通信を行う事が出来ません。これはラジオのダイヤルを正確に放送局の周波数に合わせないと放送を受信できないのと同じですね。また、電波というのはこの周波数によって伝わり方が大きく変わってきます。従って、無線通信を行うにあたっては使い道に応じて適切な周波数帯を選ばなければなりません。適材適所なのですね。
大雑把に言って、周波数が高いほど電波は直進性が高くなり、山やビルなどの陰に回り込み難くなります。このため遠距離に届き難くなります。その代わり、周波数が高いほど一般に多くの情報を乗せる事が可能になります。
周波数帯の名称と主な使われ方を表1に示します。また、表中の使途の中の太字は鉄道に関連して用いられる無線です。
電波はほとんどの場合、好き勝手には発射してはいけないものです。勝手に電波を発射してしまうと通信が出来ないどころか、他の無線通信に妨害を与えてしまう恐れがあります。用途によって使用可能な周波数帯は決められており、電波を発射するためには総務省(旧郵政省)の免許、つまり許可が必要です。皆さんが持っていると思われる携帯電話やPHSも電波を発射する訳ですが、これらに関しても総務省の免許、またはそれに代わる手続きが事業者によって行われています。
〆切とページ数その他諸々の事情(謎)により今回はここまでとさせて頂きますが、鉄道と関連のある内容がほとんど無かったうえ、自分で書いていてもあんまり面白くない文章ですね。今回は前置きだけで終わってしまいましたが、次回は鉄道で用いられる無線の各論をもう少し詳しく紹介してゆく予定です。
1:第九編集局長
2:希に「電波が見える、聞こえる、感じられる」などという事を言う人もいるらしいのですが、ふつーはそんな事はあり得ません。
3:あまり正確な説明ではありませんが…。
原文のpdf版はこちら。
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Published on 2001/12/30 / Last updated on 2002/04/08
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