「(前編)」を掲載した「鉄っぽい本12」は既に完売しており在庫はありませんが、
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内「過去の作品を訪ねて」にて公開しております。また、「鉄っぽい本13」に関しては本書の発行時点ではまだ在庫はありますので興味のある方はご覧下さい。
2001年11月18日、JR東日本は東京近郊区間で非接触ICカード式定期券・プリペイドカード「Suica1」のサービスを開始しました2。これはご存じの通り自動改札機の上部にカードを触れる(近付ける)事によりカードの内容の読み書きが行われています。
「タッチ&ゴー」と広告されている通り従来の磁気カードのようにカードを定期入れから取り出して自動改札機に挿入するという煩わしさが無く、「チャージ」する事によりカードの再利用が可能であり、定期券にチャージする事により乗り越し精算が自動で行われるだけでなく、定期券であれば紛失しても再発行が可能であるなど、利用者にとって非常に便利な物であり3、500円のデポジット料を預けなければならないにも関わらず僅かな間に爆発的に普及しています4。また、利用者にとって便利であるだけでなく、鉄道事業者にとっては磁気カードの機器とは異なり機器に機械的な可動部分が無いため、故障が少なく、メンテナンスフリーも図られるというメリットもあります。
コラム:Suicaのひみつ本文にも書きましたとおりSuicaの無線ICカードシステムはSONYが開発したものです。 SONYのFeliCa紹介サイトhttp://www.sony.co.jp/Products/felica/ に鉄道以外での応用例などについての紹介がありますので、興味のある方はご覧下さい。上記サイトによるとFeliCa対応のUSB接続カードリード・ライタ「パソリ」が市販されており、また、これを使ってSuicaの残額と使用履歴を見られるソフトもダウンロード出来るようになっています。 SuicaはICカードであるため、従来の磁気カードに比べ遙かに多くの情報を記録する事が可能です。また、磁気カードとは異なり偽造・変造も極めて困難となっています。 さて、Suicaで最近「運賃の二重徴収」が話題になりました。これは自動改札機に二回連続してカードを触れた時に、二回分の初乗り運賃が引かれてしまう事です。 磁気カードとは異なり、無線ICカードでは入出場時に自動改札機にカードを複数回触れたと認識されてしまう可能性があります。このような場合、通常は二度目以降は無効とするのですが、自動改札機の設定ミスで二度目の接触も有効となったというのが二重引きの原因です。この他、改札機の故障のため二重徴収となったケースもあります。 最近、駅にこの二重引き落としについての貼り紙が貼られており、また、ここには二重引き落としされたカードの番号も記載されています。自動改札機を通ったカードのIDが記録されているため二重引き落としを起こしたカードを特定出来るようです。 カードに固有のIDが振られており、また、改札機を通ったカードのIDを記録しているという事は、カード、すなわち利用者が、いつ、どの駅のどの改札機を通ったかという動きを追跡する事も少なくとも技術的には可能であるという事になります。 |
Suicaの無線ICカード部分はSONYが開発した「FeliCa」システムを応用していますが、ここでの情報の伝送は13.56MHzの短波帯の電波を用いています。Suica対応の自動改札機からはこの周波数の電波が発信されており、カードとの情報のやりとりを行うのと同時にカードへの電力の供給も行うようになっています。また、カードには情報を記憶するメモリチップのほか、自動改札機からの電波を受けるためのアンテナが内蔵されており、ここで動作に必要な電力を発生し、また、情報のやりとりを行うようになっています。
ここで発信される電波はアンテナから数十cmに届く程度のごく弱い強度ではありますが、とは言え電波を出すうえに駅には多数の自動改札機が設置されるという事もあり、従来は「ワイヤレスカード」として総務省からの無線局の免許を受ける必要がありました。このため、Suicaのサービス開始当初にはJR東日本はSuica利用全駅に関し無線局免許状の交付を受けていました。しかし、2002年8月に電波法施行規則等が改正され、この周波数帯を用いるワイヤレスカードについては無線局の免許が不要となりました。
前節でも書きましたとおり、一口に鉄道無線と言っても非常に多くの種類があります。これらには大きく分けて列車無線や保守無線など、列車の安全な運行のために必要な無線と、直接列車の運行とは関係が無く、主に乗客のサービスのために用いられる無線とがあります。また、用いられる機器にも、防護無線など鉄道特有で他への応用がほぼ不可能な機器と、ある程度の汎用性がある機器とがあります。
本節では主に鉄道特有の無線のうち列車無線の機器について紹介します。
鉄道に限らず交通機関の運行にあたり最優先で求められる事は、当然の事ですが「安全」です。また、業務用の機器ですから、毎日休まず使われる物です。このため、鉄道で用いられる様々機器は市販向けの機器に比べ非常に高い信頼性が求められます。 無線機器についても同様であり、高信頼な物として作られており5結果として高価な物となっています。
列車無線において通常の無線と同様に地上側は点として設置されたアンテナから電波を発射する方式を空間波無線(SR)と呼びます。SRでは通常VHF帯の電波を用います。
これに対し主に地下鉄の列車無線では線路に沿って誘導線を引き回し、100kHz程度のLF帯を用います。これを誘導無線(IR)と呼びます。地上路線で誘導無線を使用している路線もあります。
空間波無線と誘導無線では使用する周波数が全く異なるため、これらの方式を併用するというのは無駄が多くなってしまいます。このため、長いトンネル内には空間波無線で用いるVHF帯の電波を導く漏洩同軸ケーブル(LCX)を用います。通常の同軸ケーブルはテレビを壁のアンテナ端子から繋ぐのにも用いますが、中心芯線と周辺を囲む網線、そして絶縁体からなる構造となっています。これは電波などの信号を少ない損失で伝送する事を目的としていますが、漏洩同軸ケーブルでは網線に隙間を設ける事により、ここから電波が少しずつ漏れるようになっています。すなわち、電波を導く同軸ケーブルと、電波を送受信するアンテナと両方の役割を果たします。LCXは新幹線や比較的新しい地下鉄路線で用いられています。
模型を作られる方はご存じであると思われますが、空間波無線では車両側のアンテナは先頭車の屋根に取り付けられています。JRであればコップを逆さにしたような形が、 私鉄であれば「ブレード型」と呼ばれるΓ字型というのが一般的です。この他に棒状というのもあります。希にクーラキセ内に内蔵するという系列もあります。
かつての信越本線横川-軽井沢間の碓氷峠の専用機関車EF62, EF63には正面に仰々しいアンテナが取り付けられていましたが、これもC型列車無線のアンテナでした。この区間はトンネルが多くLCXを敷設するのが妥当であったのですが、LCXを敷設するのにコストが掛かるのと路線の廃止が決まっていたため、車両側のアンテナの性能を上げる事で対処したというものです。
誘導無線のアンテナは大きく分けて二種類の形状があります。一つは棒状の物であり、主に中間車、希に先頭車の妻面に取り付けられています。もう一つはループ状の物であり、こちらは主に先頭車の屋根に取り付けられています。いずれの形状であるかは誘導線の設置位置に依り、路線毎に決まっています。
地上側のアンテナは運転指令所に設置されていたり、長大路線やトンネルが多い路線ではこの他に必要に応じて設置されています。
1:Super Urban Intelligent CArdの頭文字だそうです。
2:これに先立ち2001年4月8日から7月8日まで、埼京線恵比寿-川越間で一般向けモニタ試験をおこなっていました。
3:最大の欠点は対応していない他社とは乗り継ぎが出来ないという事でしょうね。
4:JR東日本の発表によれば今年10月22日に利用者数500万人を突破したとの事です。
5:第1節「はじめに」にも書きましたが、鉄道においては運行管理を主に信号保安装置によっているため、無線というものはある意味あまり重要度が高くありません。同じ交通機関でも船舶や航空では無線が人命に直結するため、これらの機器では鉄道よりも更に高い信頼性が求められます。予備を搭載したり、航空においては使用期間が定められていたりする物もあります。
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Published on 2002/12/29 / Last updated on 2003/04/27
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