一冊の同人誌から

彩葉

 「東京のりもの学会 第10回開催記念誌 TIPT TRANSACTIONS」(2007年5月発行)に掲載された記事のhtml版です。


別冊KILOPOST Vol.6
学習院高等科鉄道研 昭和61年清算事業団 発行
1988年2月発行、頒価500円
私の手元に、一冊の古い同人誌があります。
20年近く前、国鉄分割民営化の終わった頃に、とある高校鉄研のOB会が発行したものです。当時、私は高校生で、よく通っていた渋谷の東急ハンズにあった書籍コーナーにおかれていたこの同人誌を見つけ、決して高くない小遣いで、思わず買ってしまったものです。
当時の事とて、テキストは全部手書き、イラストも多く、写真はつぶれかかったコピー誌で、製本もお手製でしたが、中身の充実ぶりと多彩さは、他の鉄道雑誌にはなかったものでした。当時ハマっていた地元東急3450形の、凄まじく詳細かつ思い入れの強い紹介記事から、
「うよくちゃんとげりらちゃん」なんて、どう見ても思想的にヤバいパロディーマンガまで…。先輩たちが我がものとした、同人誌の表現の自由さに、あこがれたのかもしれません。

その後私は大学鉄研に入り、関東学鉄連で多彩な各大学鉄研の部誌を目にし、
「これらをもっと世に広めたい!」と考えました。
これが「東京のりもの学会」のきっかけである事は、他項でも触れられている事と思います。ただ、この時は私にとっての「同人誌」はあくまでも「鉄研部誌」の範囲でした。
しかし、きしたんや他のサークル仲間に連れられ、よく判らないまま、売り物をなんとか用意して、はじめて「コミックマーケット」にサークル参加したとき、目前のビックサイトには、かつて見た「同人誌」の世界の菓大な広がりがありました。
この自由な世界の一環として、公共交通や旅行が大好きな創り手の為の「場」を提供したい…という想いが、とうとう10回も「東京のりもの学会」を続けることになってしまいました。

はじめて同人誌を手にしてから20年、サークル活動をはじめてからでも10年以上経ちました。その間に世の中は激変し、当初はパソコン通信だけだった「ネット」は急激な広がりを見せ、誰でも情報を手軽に発信出来るようになりました。
おまけに最近では、公共交通の商業誌、書籍も猛烈な勢いで発刊されるようになり、なかには、プロが書いたとはとても思えない、酷いものまで散見されるようになりました。
しかし、同人誌の発行部数、点数は減るどころか、かえって増えているように感じます。
紙メディアの最大の利点は「保存性」です。
ネット上のリソースは 1 年もたたずに消えてしまいますが、紙なら、20年前の同人誌でもこうやって繰り返し見る事が出来ます。

出来る事ならば、今後も皆さんが、自主制作に相応しい自由な発想で、何年も後になっても、楽しく見返す事が出来るような同人誌を創り出してくれますように…。


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QDAT東京のりもの学会東京のりもの学会第10回開催記念誌 TIPT TRANSACTIONS一冊の同人誌から

Published on 2007/05/04 / Last updated on 2019/08/01
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